コンセプト 〜スローデザイン研究会とは〜

住の再生とスローデザイン

「藁舎」の壁住まいとは、もともとその土地の気候風土で育った材料と、地域に伝わる伝統的な技術によってつくるものでした。でも今は、住宅は建てたい人がいれば日本中どこへでも運んでいける。建材は工場で生まれた量産品で、家の中も外も石油からつくられた材料がほとんどです。大量生産、大量消費、大量廃棄のシステムが支える高度産業社会では、住宅は地域特性にしばられない、取り換え可能な消費財にすぎません。耐震強度偽装、アスベスト禍、シックハウス。これらの言葉は、住宅をもはや命とのつながりで見ることのできなくなった、この国の住文化の貧しさを象徴しています。しかも、遠大な時を重ねて蓄えられてきた住の心や地域の技術は、ますます加速する時代の流れの中でいつ消えてもおかしくありません。

“真実の窓”(「藁舎」) 生活様式が画一化し、生活空間が均質化するのは、そこに生きる私たち自身の眼が均質になったから。大地と人の有機的なつながりが失われ、暮らしが多様な命の営みから切り離されたからです。スローデザインとは、経済効率を最優先する社会が切り捨ててきたつながりや循環、小さなもの、つつましいもの、ローカルなものに目を向け、私たちの暮らしに本来の安らぎと美しさを取り戻すためのデザインです。住の再生は、私たちが自ら創り出す命の物語にかかっているといってよいでしょう。

2001年に発足したスローデザイン研究会は、環境文化NGO「ナマケモノ倶楽部」を発信源に全国的な広がりを見せるスロー・ムーブメントとも連携しながら、モノづくりを通じて、人と人、人と自然、人と地域のつながり直しと、エコロジカルで新しいライフスタイルを住の現場から創造することをめざして活動しています。

スローカフェ・ムーブメントとスローデザイン

カフェスロー環境文化NGO「ナマケモノ倶楽部」の拠点であり、さまざまな環境保護運動の情報発信基地でもある「カフェスロー」のデザインを、私たちスローデザイン研究会が手がけたのが2001年。その「カフェスロー」が発信源となって、以来「スローライフ」というオルタナティブな物語を掲げて生き方の転換を図る人たちが増え、「スロー・カフェ」というビジネスがムーブメントになって全国に広がっていきました。スロー・カフェは地域コミュニティの中に根を下ろし、情報発信とさまざまなジャンルの人々をつなぐコミュニケーションと交流の場として定着しつつあります。

土の燭台(「風流」)こうした動きに呼応するように、ストローベイルを、まるで新しい生き方のシンボルのように建築やインテリアに取り入れてカフェをつくる人たちが増えています。2009年、ナマケモノ倶楽部の誕生10周年を機に改定された「スロー・カフェ宣言」には、スロー・カフェであるための条件として、「ひとつ、スロー・カフェはスロー・デザイン」の一項がつけ加えられました。つまり、環境に負荷をかけず、人や地域、自然とつながりながら、住にかかわるライフスタイル全般を見直すためのデザインを提案することが、スロー・カフェという新しい物語には欠かせないからです。

食とともに、まわりの環境との関係や住のあり方をも見直し、多様なつながりを育むコミュニティづくり。それがスローデザイン研究会の進めるスローカフェ・ムーブメントであり、ストローベイル・ハウスはその象徴的存在なのです。

土塗りワークショップ(琵琶湖の家) 藁の収穫